地銀61行のDX推進状況レポート2025を発表:AI検索対応は進むも、Webアクセシビリティに大きな課題
株式会社メンバーズは、全国の地方銀行61行を対象とした「地銀61行 DX推進状況レポート2025【第5回】」を発表しました。このレポートは、地方銀行の「Webサイト体験」と「顧客接点のデジタル化」の推進状況を評価するもので、2021年から実施されている調査の5回目にあたります。
今回の調査では、近年の社会変化や技術動向を踏まえ、新たに「AI活用」や「Webアクセシビリティ」、「オウンドメディア活用」といった項目が追加されました。AI Workstyle Lab編集部では、本調査結果が示すAI活用の現状と、誰もが情報へ平等にアクセスできる環境整備の重要性について解説します。
レポートサマリー:AI検索対応が進展、Webアクセシビリティには課題
レポートの主な調査結果は以下の通りです。
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大規模言語モデル(LLM)が自社コンテンツを引用・参照しやすくする「LLMO(Large Language Model Optimization)」において、約64%の銀行が総合LLMOスコア3.5点以上を取得し、AIによる引用・参照がされやすい状態にあります。
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弱視・ロービジョンユーザー(眼鏡などをかけても視力が十分に上がらない状態や、視力・視野の障害により日常生活に不便を感じる状態を指します)に対するWebアクセシビリティの問題が10個以上ある銀行は全体の約72%を占め、改善が求められています。特に音声ユーザビリティに関する全項目で90点以上の評価を得た銀行は0行でした。
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約64%の銀行でチャットボットでの問い合わせが可能となっており、24時間365日対応による店舗やコールセンターの負担軽減が図られています。
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約30%の銀行がオウンドメディアを運営し、金融知識や地方ならではの情報を発信することで、見込み顧客との関係構築に繋げています。
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アプリから振込および残高照会が可能な銀行は前回調査より8行増加し約85%に、オンラインで来店予約および相談が可能な銀行は前回調査より9ポイント増加し全体の約49%に達しています。

詳細な調査結果とAI Workstyle Lab編集部の解説
AI検索対応(LLMO)の進展
Geminiなどの大規模言語モデルに自社コンテンツが引用・参照されやすくなるよう最適化できているかというLLMOの評価では、約64%の銀行が総合LLMOスコア3.5点以上を獲得しました。これは、多くの銀行が生成AI時代において、自社の情報を正確に、かつ効率的にユーザーに届けるための仕組み作りに取り組んでいることを示しています。
AI Workstyle Lab編集部より:生成AIの普及により、ユーザーの情報収集方法は多様化しています。従来の検索エンジンだけでなく、生成AIを通じた情報アクセスも増える中で、企業が信頼性の高い情報源として認識されるためには、LLMOへの対応が不可欠です。これは、単なるSEO対策に留まらず、AI時代のブランディング戦略として捉えることができます。

Webアクセシビリティの課題
スマートフォンのトップページが弱視・ロービジョンユーザーにとって見やすいかという調査では、問題の数が10個以上の銀行が約72%に上り、特に31個以上の問題がある銀行は約39%を占めました。色彩やコントラスト比の見直しなど、視覚的な要素の改善が強く求められています。
また、スクリーンリーダー(音声読み上げソフト)での閲覧しやすさを評価する音声ユーザビリティでは、Webアクセシビリティの国際的なガイドラインであるWCAG 2.0で定められた4つの原則のうち、「理解可能」は61行全てで高水準を達成しているものの、「知覚可能(情報が認識できること)」、「操作可能(UIが操作できること)」、「堅ろう(多様な環境で解釈できること)」の観点ではばらつきが残ります。特に「知覚可能」が90点以上の銀行は16行に留まり、弱視・ロービジョンユーザーの音声読み上げ体験に課題がある状況です。全項目で90点以上の銀行は0行でした。
AI Workstyle Lab編集部より:2024年4月に施行された改正障害者差別解消法により、銀行を含む民間団体にもアクセシビリティ対応が義務化されました。デジタルサービスを提供する上で、誰もが平等に情報へアクセスできる環境を整備することは、法的要件であると同時に、企業の社会的責任でもあります。Webアクセシビリティの向上は、より幅広い顧客層へのサービス提供に繋がり、顧客体験全体の質を高める重要な要素です。


顧客接点におけるAI(チャットボット)の活用
Webサイト上にチャットボットがある銀行は、約64%に達しました。チャットボットの活用は、24時間365日問い合わせ対応を可能にし、店舗やコールセンターの負荷軽減に貢献しています。
AI Workstyle Lab編集部より:チャットボットは、顧客サポートの効率化だけでなく、顧客満足度向上にも寄与します。今後は、生成AIを組み込むことで、より自然な対話や複雑な相談への柔軟な対応が可能になり、顧客とのエンゲージメント深化や新たなサービス利用のきっかけ創出が期待されます。AIは、顧客対応の質を飛躍的に向上させるツールとなり得るでしょう。

オウンドメディアの活用
約30%の銀行がオウンドメディアを運営し、累計20本以上の記事を公開しています。これらのメディアでは、金融知識に役立つ情報や地方ならではの情報を発信し、従来の店舗や営業だけでは届きにくい若年層やデジタル志向の顧客など、潜在層との関係構築に繋げています。

アプリ・オンライン相談機能の充実
アプリから振込および残高照会が可能な銀行は、前回調査から8行増加し約85%となりました。また、オンラインで来店予約も相談も可能な銀行は、前回調査から9ポイント増加し約49%に達しています。これらの機能充実化は、顧客の利便性向上とデジタルチャネルへの誘導を強化する動きを示しています。


総合ランキング
「Webサイト体験」と「顧客接点のデジタル化」の計14項目を集計した総合ランキングでは、千葉銀行がトップを獲得しました。

AI Workstyle Lab編集部より:DX推進と社会課題解決への貢献
今回のレポートからは、地方銀行におけるDX推進の現状が多角的に明らかになりました。特に、AI検索対応の進展は、生成AIがビジネスにおける情報伝達の新たなチャネルとして定着しつつあることを示しています。一方で、Webアクセシビリティにおける課題は、デジタル化を進める上で「誰もが利用できる」という視点が依然として重要であることを浮き彫りにしています。
政府が「地域金融力強化プラン」を推進する中で、地方銀行のDXは地域経済の活性化に直結する重要な経営課題です。AI Workstyle Lab編集部では、AIをはじめとするデジタル技術の活用が、優れた顧客体験の提供だけでなく、地域社会の持続的な発展に貢献する鍵となると考えます。今回の調査結果が、各銀行の戦略立案や、より豊かな地域社会を築くための一助となることを期待しています。
レポート詳細と調査概要
「地銀61行 DX推進状況レポート2025」の詳細はこちらからダウンロードできます。

調査概要
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調査期間: 2025年8月1日(金)~8月31日(日)
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調査対象:
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地方銀行(61行):北海道銀行、青森みちのく銀行、岩手銀行、東北銀行、七十七銀行、秋田銀行、北都銀行、荘内銀行、山形銀行、東邦銀行、常陽銀行、筑波銀行、足利銀行、群馬銀行、武蔵野銀行、千葉銀行、千葉興業銀行、きらぼし銀行、横浜銀行、第四北越銀行、山梨中央銀行、八十二銀行、北陸銀行、富山銀行、北國銀行、福井銀行、大垣共立銀行、十六銀行、静岡銀行、スルガ銀行、清水銀行、百五銀行、三十三銀行、滋賀銀行、京都銀行、関西みらい銀行、池田泉州銀行、南都銀行、紀陽銀行、但馬銀行、鳥取銀行、山陰合同銀行、中国銀行、広島銀行、山口銀行、阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、四国銀行、福岡銀行、筑邦銀行、西日本シティ銀行、北九州銀行、佐賀銀行、十八親和銀行、肥後銀行、大分銀行、宮崎銀行、鹿児島銀行、琉球銀行、沖縄銀行
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メガバンク(3行)比較調査:三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行
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調査・分析: 株式会社メンバーズ フォーアドカンパニー

