NVIDIAは2025年10月31日、Samsung Electronicsと協力し、最先端の「AIファクトリー」を構築する計画を発表しました。これは、インテリジェントコンピューティングとチップ製造が融合する、新たな時代の幕開けを告げるものです。このAIファクトリーは、Samsungの半導体技術とNVIDIAプラットフォームを組み合わせることで、次世代のAI駆動型生産の基盤を確立します。
5万基以上のNVIDIA GPUを搭載
Samsungの半導体AIファクトリーには、5万基以上のNVIDIA GPU（Graphics Processing Unit：画像処理に特化した半導体チップ）が搭載される予定です。これは、Samsungのデジタルトランスフォーメーションの中核を担い、高速なコンピューティング能力を高度なチップ製造プロセスに直接統合します。
この協業を通じて、SamsungとNVIDIAは、AI駆動型の大規模半導体製造において世界的なベンチマーク（基準）を確立することを目指しています。物理的な機器や生産ワークフローから得られるデータを統合し、自律的なファブ（半導体製造工場）環境での予知保全（機器故障を予測し事前に対応すること）、プロセス改善、運用効率の向上を実現します。
NVIDIAの創業者兼CEOであるジェンスン・フアン氏は、「私たちはAI産業革命の黎明期にあり、世界の設計、構築、製造の方法が再定義されようとしています」と述べています。また、Samsung Electronicsの執行会長であるJay Y. Lee氏は、「NVIDIAの技術はイノベーターが産業を再構築する力を強化してきました。この変革をリードする長い旅をNVIDIAと継続できることを嬉しく思います」とコメントしています。
半導体分野での長年の協業と技術革新
NVIDIAとSamsungは、NVIDIA初のグラフィックスカード「NV1」とSamsungのDRAM（Dynamic Random Access Memory：半導体メモリの一種）における最初の協業から、業界初の商用HBM（High Bandwidth Memory：広帯域幅メモリ）の導入、そして現在のHBM3EおよびHBM4の主要な供給における協業まで、25年以上にわたる強固な関係を築いてきました。この長年のパートナーシップが、今日のAI変革の基盤構築に貢献しています。
両社は今後も、HBM、GDDR、高密度メモリモジュール、SOCAMM、カスタムソリューション、そしてファウンドリサービス（他社の半導体を製造するサービス）を超えて、半導体分野での協業を継続し、より広範なエコシステムの構築を支援します。
AI Workstyle Lab編集部コメント
NVIDIAとSamsungの協業は、単なる技術提携にとどまらず、AIが製造業のあり方を根本から変える可能性を示しています。特に、5万基ものGPUを投入する「AIファクトリー」は、これからのスマート製造のモデルケースとなるでしょう。製造プロセス全体の最適化は、コスト削減だけでなく、製品の品質向上や開発サイクルの短縮にも直結します。これは、AIが私たちの仕事の効率を劇的に向上させる具体的な事例として注目に値します。
先進技術の導入でチップ製造を高速化
Samsungは、NVIDIA GPU、NVIDIA CUDA-X™ライブラリ、さらにSynopsys、Cadence、Siemensといった主要な電子設計自動化（EDA）ソリューションを活用し、回路シミュレーション、検証、製造解析の大幅な高速化を実現しています。両社は、これらのEDAパートナーと協力し、GPUで高速化されたEDAツールと設計技術の再構築に取り組んでいます。
特に、物理的に正確なシミュレーション環境を提供するNVIDIA Omniverse™プラットフォームを、デジタルツインの基盤として採用しています。この仮想環境により、世界中のファブは設計から運用までの時間を短縮し、AI駆動型の予知保全、リアルタイムの意思決定、工場の自動化を実現できます。
また、インテリジェントな物流を加速するため、SamsungはNVIDIA RTX PRO™ サーバーにNVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Server Edition GPUを搭載して展開しています。Samsungのファブのリアルタイムデジタルツインは、運用計画、異常検知、物流最適化を可能にし、完全に自律的なファブに向けた重要な一歩となります。
半導体製造プロセスで最も計算集約的なワークロードである計算リソグラフィ（半導体パターン形成の工程）を高速化するため、NVIDIA cuLithoライブラリをSamsungの先進的なリソグラフィプラットフォームであるOPCに統合しています。この協業により、半導体製造全体で20倍の性能向上と拡張可能な展開が実現しました。
AI Workstyle Lab編集部コメント
デジタルツインの活用は、物理的な工場を仮想空間に再現し、そこでシミュレーションを行うことで、設計ミスや運用上の課題を事前に発見し、改善することを可能にします。これにより、試行錯誤のコストと時間を大幅に削減できるため、開発スピードの向上に貢献します。さらに、AIによる予知保全は、機器の故障を未然に防ぎ、生産ラインの停止リスクを低減します。これらの技術は、あらゆる製造業において効率化と生産性向上を実現する鍵となるでしょう。
デジタルツイン、ロボティクス、生成AIを活用したスマート製造
Samsungは、独自のAIモデルを構築しており、4億台以上のSamsungデバイスに高度な推論機能へのアクセスを提供し、リアルタイム翻訳、多言語対話、インテリジェントな要約において画期的なパフォーマンスを実現しています。
製造自動化とヒューマノイドロボットアプリケーションにおいては、NVIDIA RTX PROサーバー上でNVIDIAロボティクス技術を活用し、インテリジェントロボティクスの未来を切り開いています。インテリジェントロボットの展開を加速するため、Samsungは、NVIDIA OmniverseとNVIDIA Cosmos™世界基盤モデル上に構築されたNVIDIA Isaac Sim™リファレンスアプリケーションを活用しています。これは、合成データと実データ、ミドルウェア、テレオペレーションを接続するものです。
さらに、ヒューマノイドロボティクス向けに最適化されたNVIDIA Jetson Thor™高性能エッジAIプラットフォームも使用しています。これらの技術を組み合わせることで、物理世界をリアルタイムで理解し、対話できるロボットの展開が可能になります。NVIDIAとSamsungはさらに、韓国の通信事業者や学術機関と連携し、フィジカルAIの導入に不可欠となるAIとモバイルネットワークワークロードを統合するAI-RANネットワーク技術を開発しています。
AI Workstyle Lab編集部コメント
生成AI、ロボティクス、デジタルツインの組み合わせは、製造業だけでなく、物流、医療、サービス業など、幅広い分野での革新を促します。特に、物理世界と仮想世界をシームレスに連携させることで、人間が行っていた多くの作業をAIとロボットが代替・支援できるようになります。これにより、私たちはより創造的で戦略的な業務に集中できるようになるでしょう。AI-RANネットワーク技術の開発も、AIとモバイル通信の融合を加速させ、スマートシティや自動運転といった次世代技術の基盤を築く上で重要な役割を果たすと期待されます。
まとめ
NVIDIAとSamsungによるAIファクトリーの構築は、半導体製造の効率を劇的に向上させるだけでなく、モバイルデバイスやロボティクス分野におけるAIアプリケーションの進化を加速させるものです。長年にわたる両社の協業が、AI駆動型生産の新たな基準を確立し、世界の産業に変革をもたらすことが期待されます。
詳細については、NVIDIAの公式ウェブサイトをご覧ください。
※本発表資料は米国時間2025年10月30日に発表されたプレスリリースの抄訳です。
