自律実験とは? AIとロボットが変革する科学研究
自律実験とは、AIやロボット技術を活用し、実験計画、実行、結果分析といった一連の研究開発プロセスにおいて、人間の介入を最小限に抑えて実施する研究手法を指します。その起源は、2009年にイギリスのアベリストウィス大学(当時)のロス・キング教授らが開発したシステム「Adam」にあります。
「Adam」は、酵母の遺伝子と酵素の関係について20の仮説を立て、数千回の実験を自律的に実行して検証しました。このシステムは、仮説立案から実験実行、結果分析、仮説修正までの一連のプロセスを、人間による材料補給や廃棄物処理、清掃といった最低限の介入のみで完結させたことで、「自律実験」という概念の原点となりました。
2019年には、トロント大学のアラン・アスプル・グージック教授らが「Self-driving Labs(SDL:自律実験室)」の概念を提唱し、単なる自動化にとどまらず、実験結果を評価し最適な条件を予測して計画を自律的に修正することの重要性を強調しました。AIの急速な発達に伴い、情報科学を活用して材料の探索や試作、評価をおこなう「データ駆動型材料開発」の一分野としても、自律実験への注目が高まっています。
自律実験は、研究開発の自動化・自律化を通じて、以下のような価値をもたらすことが期待されています。
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研究者の肉体的負担の軽減と研究開発人材不足の解消
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無用な実験の回避による研究開発期間の短縮と廃棄物削減
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実験操作のデータ化による研究ノウハウの継承
研究予算の動向:米国が牽引する自律実験への投資
アスタミューゼ株式会社のグラントデータベースによる分析では、自律実験に関連する研究開発への資金配賦額は、2015年以降増加傾向にあり、特に直近5年間でその傾向が強まっています。

図1:2015~2024年の期間における、自律実験に関連するグラント配賦額上位5か国のプロジェクト件数動向

図2:研究プロジェクト配賦額の国別推移
国別に見ると、プロジェクト件数および研究配賦額ともに米国がトップです。特に2020年以降、米国は他国と大差をつけており、政府が自律実験の概念を早期に認識し、多額の投資を行ってきた背景があります。米国エネルギー省(DOE)は2020年に「AI for Science」レポート(https://www.osti.gov/biblio/1604756)をまとめ、自律実験の重要性に言及しました。
また、2025年にはAIを活用して科学研究における発見を加速させる「Genesis Mission」を公表し、DOEは実験室の自動化や大規模実験の自律制御プロジェクトに3億2,000万米ドル規模の投資を実施すると発表しています(https://www.energy.gov/articles/energy-department-advances-investments-ai-science)。米国は今後もこの分野の研究プロジェクトへの投資を拡大すると考えられます。
諸外国においても、巨額の資金が配賦された自律実験関連のプロジェクトが立ち上がっています。主な事例は以下の通りです。
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MIP: BioPolymers, Automated Cellular Infrastructure, Flow, and Integrated Chemistry: Materials Innovation Platform (BioPACIFIC MIP)
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機関/企業:University of California-Santa Barbara
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グラント名/国:NSF/米国
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研究期間:2020~2026年
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配賦額:約2,400万米ドル
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概要:微生物を「生物工場」として活用し、高性能な生体由来プラスチックを開発。ロボットによる自動化合成と高スループット実験で材料探索・製造・評価を加速します。
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Autonomous Discovery of Advanced Materials
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研究機関/企業:UNIVERSITY OF SOUTHAMPTON他
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グラント名/国:CORDIS/EU
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研究期間:2020~2027年
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配賦額:約1,100万米ドル
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概要:機能性材料探索のための計算および実験でAIを活用するプラットフォームを構築。AI搭載のモバイル型「ロボット化学者」が自律的に合成と評価実験を行います。
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AI for Chemistry: AIchemy
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機関/企業:University of Liverpool 他
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グラント名/国:UKRI /英国
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研究期間:2024~2029年
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配賦額:約700万米ドル
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概要:AIを活用した自律的な化学実験と反応最適化を推進。データ共有基盤の整備や人材育成を通じて、英国の化学研究をAI駆動型へと変革することを目指します。
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非平衡合成による多元素ナノ合金の創製
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機関/企業:京都大学 他
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グラント名/国:KAKEN/日本
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研究期間:2020~2025年
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配賦額:約6億3,000万円
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概要:通常は混ざり合わない金属元素同士を非平衡状態にし、ナノ合金を創製。材料スクリーニングに機械学習を、材料合成にロボットアームを利用した自動化装置を活用します。
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論文動向分析:米国が先行し、中国が追随
学術論文は、グラントよりも社会実装までの期間が短く、特許よりも長い技術の動向を反映します。自律実験に関する論文数の年次推移を見ると、米国が他国の倍以上の件数でトップを維持しており、研究開発への大規模投資が着実に成果につながっていることが分かります。

図3:2015年以降に出版された、自律実験に関する論文数上位5か国に日本を加えた計6国の、筆頭著者の所属国別の年次推移
2022年以降は中国が二番手に浮上し、日本、英国、ドイツ、カナダを一歩リードしている状況です。
アスタミューゼ株式会社による「未来推定」分析では、論文の概要に含まれる特徴的なキーワードの年次推移が示されています。

図4:2015~2024年の10年間における、自律実験に関する論文の概要にふくまれている特徴的なキーワードの年次推移
成長率上位には「synthesis-characterization(合成・特性評価)」や「design-build-test-learn(設計・構築・テスト・学習)」など、実験操作だけでなく、結果評価と分析までを一貫して実行するシステムを想定させるキーワードが見られます。これは、単なる反復作業から、考察や今後の展開構築まで自動で実施するシステムの開発が進んでいることを示唆しています。
領域名では「materials-science(材料科学)」が多く、無数の材料候補から目的の物質を探索する上で、実験自動化による開発高速化が期待されていることが分かります。一方で、「biochemical(生化学)」や「biofoundry(バイオファウンドリー)」といったバイオテクノロジー関連のキーワードも出現しており、生物実験での自律実験活用が始まっていることがうかがえます。また、「chemputer(ロボット化学合成プラットフォーム)」や「openflexure(自動化顕微鏡プラットフォーム)」など、実験操作の自動化ソリューションを共有するプラットフォームに関するキーワードも見られ、自律実験技術の研究開発だけでなく、実装と普及が進められていることが示唆されます。
(さらに詳細な論文事例、特許出願傾向、および全体のまとめについては、アスタミューゼ株式会社のコーポレートサイトの該当ページでご確認ください。)
AI Workstyle Lab編集部コメント
自律実験の進展は、研究開発に革命をもたらし、ビジネスに新たな機会を創出します。AIとロボットによる自動化・自律化は、材料開発やバイオテクノロジーといった分野で実験プロセスを劇的に効率化し、新製品開発の加速に直結するでしょう。これにより、企業は市場競争力を高め、研究者のノウハウ継承や働き方改革にも貢献します。初期投資は必要ですが、中長期的にはコスト削減とイノベーション加速による大きなリターンが期待できると見ています。
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本記事は、各社の公式発表および公開情報を基に、AI Workstyle Lab編集部が 事実確認・再構成を行い作成しています。一次情報の内容は編集部にて確認し、 CoWriter(AI自動生成システム)で速報性を高めつつ、最終的な編集プロセスを経て公開しています。

