ヴェルトが「コーザルAIアシスタント」を発表、熟練者の「なぜ」をAIで組織知として継承・進化

スポンサーリンク
📰 AIニュース
この記事は約8分で読めます。
スポンサーリンク
スポンサーリンク

高度人材の「知」を継承・進化させるAI「コーザルAIアシスタント」登場

株式会社ヴェルトは、高度な専門家や熟練者の知識を因果関係としてモデル化し、組織内でデジタル活用できるようにする「コーザルAI(因果AI)アシスタント機能」と、その実装を支援するプロフェッショナルサービスを新たに発表しました。これは、同社が提供するコーザルAIプラットフォーム「xCausal™(クロス・コーザル)」の新機能として、2026年1月より順次提供が開始される予定です。プロフェッショナルサービスは即日利用が可能です。

高度人材の知を継承・進化させるAI「コーザルAIアシスタント」発表

従来のAIでは困難だった「なぜ」の解明

これまで、組織に蓄積された高度な専門知識や熟練者のノウハウをAIで継承しようとしても、一般的な生成AIやRAG(Retrieval-Augmented Generation:外部情報検索と生成AIを組み合わせた技術)だけでは限界がありました。生成AIは大量の知識を扱える一方で、パターンと確率のみに基づいて回答するため、時に誤った出力をする可能性があります。これは、MITやハーバード大学などの研究チームが指摘する「ポチョムキン理解」(AIが表面上は理解しているように見えても、実際には深く理解していない状態)として知られています。

人間である専門家は、「なぜそのような結果になるのか」という因果関係(原因と結果の関係性)を踏まえて意思決定を行います。これにより、再現性と説明可能性のある結論を導き出すことが可能です。この因果的な知見をモデル化するアプローチは、暗黙知(言葉や図で表現しにくい知識)を含む専門知識を整理し、組織全体で活用可能な形に変換する有効な手段となります。

深刻化する日本の経営課題とAIの役割

日本の生産年齢人口(15〜64歳)は2050年には約3割減少すると見込まれており、労働力不足や技能・ノウハウの継承問題が深刻化しています。特に製造業では半数以上が技能継承に課題を抱え、熟練者や専門人材の退職に伴う暗黙知の流出が、現場力や研究開発力を脅かす問題となっています。

このような背景から、組織に蓄積された知識をデジタル化して活用する動きが加速しています。生成AIは情報探索や文章生成の効率化に貢献しますが、前述の「ポチョムキン理解」のように、確率論に基づく出力では再現性が求められる処理を苦手とする構造的な弱点があります。

生成AIの弱点とコーザルAI(因果推論AI/因果AI)の必要性

因果モデルが「デジタルな熟練者・専門家」に

ヴェルトのコーザルAI(因果AI)「xCausal™」およびプロフェッショナルサービスは、熟練者や高度人材が持つ「状況や前提条件(交絡因子や共変量:原因と結果の両方に影響を与える第三の要因)」「どのような行動や施策をとるか(処置)」「その結果として得られる成果や影響(アウトカム)」を因果関係のモデルに整理します。さらに、論文や辞典などの信頼性の高いデータソースから、自然言語処理を活用した因果知識抽出技術によって学術的に証明された因果関係も反映可能です。データから未知の関係を発見し、専門家の意思決定プロセスをモデル化することで、属人的な知識をデジタル上に再現できます。

これにより、現場のベテランや専門家に「なぜその結果になるのか」「このような状況ではどうすべきか」と尋ねるのと同等の答えを、再現性と説明性を備えた形で提示できる、いわば“デジタル高度人材”を組織内に常駐させることが可能になります。また、データを継続的にアップデートすることで、更なる知識の高度化が期待できます。

因果モデルが “デジタルな熟練者・専門家” になる

コーザルAIアシスタントの主要機能とプロフェッショナルサービス

「コーザルAIアシスタント」は、複数のAIエージェント(特定の目的のために自律的に動作するAIプログラム)が連携し、因果モデルの発見・改善・活用を自律的に実行します。専門知識から既知の因果関係を抽出し、頑健性評価(モデルの安定性評価)や必要な変数の探索を通じて未知の関係を発見します。信頼度の高いモデルを管理者に提示し、人間の判断をフィードバックとして学習する「Human in the Loop(人間参加型)」設計により、因果モデルの品質を継続的に進化させることが可能です。

事前準備として、専門家から得た因果関係の知見を分析・整理し、必要な変数の取得やルール設計をもとに、高度人材の思考プロセスをモデル化するための様々なプロフェッショナルサービスも提供されています。

主要機能は以下の3つです。

  1. 因果知識抽出エージェント群
    文献や業務資料などのテキストデータから既知の因果関係を自動的に抽出し、事前知識としてルール適用が可能です。専門家から得た知見に加え、体系的にわかっている知識を取り込むことができ、モデルへの適用は専門家の判断を得た上で実施されます。
  2. 自律型因果モデリングエージェント群
    オーケストレーター・エージェントを中心に、複数の因果推論エージェントを連携・制御しながら自律的に動作します。既知の因果モデルに加え、頑健性評価の結果をもとに、可能性の高い未知の因果関係や交絡因子を発見・補完して提示します。ユーザーの用途に応じてCATE(条件付き平均処置効果:特定の条件下の平均的な効果)やRCA(根本原因解析:問題の根本原因を特定する分析手法)などの結果を提示しつつ、管理者との対話を通じてモデルの仮説検証や改良を自律的に繰り返します。これにより、因果関係の発見や検証、モデル更新といったプロセスがこれまでにないスピードと精度で実現されます。
  3. コーザルRAG(Retrieval-Augmented Generation)
    承認済みの因果モデルである「コーザルアセット」を活用し、対話型UIを通じて根拠ある回答や反実仮想(もし〜だったらどうなるか)のシナリオを提示します。一般ユーザーは専門家に直接質問するのと同様に、因果的な洞察を即座に得ることが可能になります。また、今後提供予定のAPI等を通じて接続された外部データやリアルタイムデータを継続的に監視し、因果モデル上での変化を自動的に検知します。その結果、リスクの兆候を早期に把握し、対策や改善機会を自律的に推奨します。

導入効果と今後の展望

「コーザルAIアシスタント」の導入により、以下のような効果が期待されます。

  • 属人化の解消とノウハウの組織活用:ベテランや専門人材の判断プロセスを因果モデルとして機能化し、退職や異動に左右されないノウハウの継承と発展を実現します。多くの人が高度人材のノウハウを活用できるようになり、組織の知識として発展させることで、開発や問題対応など複雑な業務での再現性を確保できます。
  • 意思決定における説明可能性の確保:「なぜその結論に至ったのか」を因果関係を示すモデル(コーザルアセット)によって可視化し、結論の背景となる前提条件や因果経路を明らかにします。これにより、経営層や現場担当者は意思決定の根拠を第三者に説明できるようになり、社内外に対する透明性や納得感を高めることが可能です。また、施策の打ち手と効果を具体的な数値で定量化して示すことができ、問題解決や投資の優先順位付けを高速化します。
  • 生成AIとの組み合わせで知的業務を高度化:自組織内の経験則と信頼度の高い知識を保有するため、生成AIが得意とする汎用知識を活用した調査やアイデア出しを利用しながら、自組織での具体的な対策をシミュレーションできます。これにより、事業企画や問題対応などの知的業務において、具体的な根拠を持った推察が可能となり、知的業務の高度化・効率化と企業全体でのAI活用価値が拡張されます。
  • ITサービスのインテリジェント・エンジンとしての利用:リアルタイムなデータ更新と合わせることで、原因と結果の関係に基づいたリスク検知や個別最適化された推奨を行うことが可能です。ヘルスケアサービスや、製造・金融・物流をはじめ様々なITサービス連携により、これまでにない付加価値を提供できます。

導入効果

東京大学大学院総合文化研究科の今泉允聡准教授は、この因果推論技術について「構造化された因果的知識のモデルを内部に構築し運用・更新することで、AI出力の信頼性と解釈性の向上を実現している」とコメントしています。現代的AIの欠点を適切に補完するものであり、今後の因果推論領域におけるAI活用のモデルケースの一つになると考えられています。

ヴェルトが展開する「xCausal™」とは

「xCausal™(クロス・コーザル)」は、データサイエンティストでなくてもコーディングなしで使える、ビジネスユーザーを対象としたSaaS型のコーザルAI(因果推論AI)プラットフォームです。自社開発のSmallytics™(因果性変数推奨技術)やCKE-LLM(因果知識抽出LLM)といったインテリジェンス技術を内蔵し、複数の因果探索技術と構造的因果モデル(SCM:因果関係をグラフで表現したモデル)に基づいた因果推論を組み合わせることで、仮想的な因果効果の検証を分単位で実現します。これにより、研究開発サイクルの短縮や実験成功率の向上、高度人材の生産的活用を可能にします。また、AI技術や信頼性評価技術による継続的改善によって、因果モデルを組織内の知のデジタルアセットとしてシステム活用を可能にしています。

ヴェルトは、社会課題解決とグッドウィル・イノベーションを加速するためにデータ解析技術を開発するデータサイエンス・カンパニーです。多くのAI技術が結果の根拠を説明しにくいブラックボックスである一方、人による意思決定や課題解決、研究開発などの分野では、アウトプットに至るメカニズムを解釈し説明できるホワイトボックスのアプローチが重要であると考えています。同社は、因果関係ベースのホワイトボックステクノロジーと相関関係ベースのブラックボックステクノロジー双方の利点を活かし、「信頼できるAI」を提供することを目指しています。

AI Workstyle Lab編集部コメント

AIの進化は目覚ましいものがありますが、その「判断の根拠」がブラックボックスになりがちな点は、ビジネスにおける実用化の大きな課題でした。今回の「コーザルAIアシスタント」は、熟練者の経験や知識を「因果関係」という明確なロジックでモデル化することで、AIの出す結論に「なぜ」という納得感を与えてくれます。これにより、AIが単なる予測ツールではなく、意思決定をサポートする「信頼できるパートナー」へと進化する可能性を秘めています。特に、人材不足が深刻化する日本において、ベテランの知見を組織全体で共有し、次世代へと継承していくための強力なツールとなるでしょう。生成AIと組み合わせることで、より高度で効率的な知的業務が実現できるため、皆さんの仕事の進め方にも大きな変化をもたらすかもしれません。

この記事の情報
記事の著者
AI Workstyle Lab 編集部

ChatGPTやAIツールを中心に、AI時代の「学び・働き方・キャリア」をアップデートする情報を発信。
AI Workstyle Labは、AIと共に進化する働き方を提案するメディアです。
AI Workstyle Lab編集部は、人間の編集者が監修し、150本以上の記事をChatGPT × 校正AIで制作しています。

AI Workstyle Lab 編集部をフォローする
📰 AIニュース
スポンサーリンク
AI Workstyle Lab 編集部をフォローする
タイトルとURLをコピーしました