AIの「Mythos問題」に挑む:Nyx FoundationとKonoe Intelligence提携が示すセキュリティの新常識と未来

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AIが大量に脆弱性を発見する「Mythos問題」とは

現在、AIの進化により脆弱性が大量に発見される時代が到来しつつあります。攻撃側はAIを用いて次々と脆弱性を見つける一方で、防御側にはAIが生成した脆弱性レポートが毎月大量に届くという状況です。しかし、その膨大なレポートの中から、どれが真実で、どれを優先して修正すべきかを人手で確認しきることは困難になっています。この、もっともらしい報告が洪水のように流通し、検証が追いつかない構造が「Mythos問題」と呼ばれています。

Nyx Foundationは1年以上前から、独自開発の形式仕様抽出・検証エンジン「SPECA」を用いてこの問題に取り組んできました。ブロックチェーンだけでなく、C/C++のオープンソースソフトウェア(OSS)でも脆弱性を発見し、公開ベンチマークで最高水準の精度を記録しています。直近ではイーサリアム財団の研究グラントを受領し、AI生成レポートの妥当性を自動で検証し、自動でパッチを当てる仕組みづくりを進めているとのことです。

今回の提携では、この仕様駆動の形式検証技術に、AIレッドチーミング(攻撃者視点での安全性評価)のコンペティションで入賞実績を持つKonoe Intelligenceの実践的な知見を組み合わせることで、あらゆるシステムに対するMythos対策を本格的に始動します。

AIが脆弱性を「大量に」見つける時代への対応

セキュリティを取り巻く前提は、静かに変化しつつあります。これまで脆弱性の発見は、専門家の時間と勘に依存する希少な作業でした。しかし、AIの登場により、脆弱性は「探すもの」から「大量に降ってくるもの」へと変化しようとしています。

これは二つの側面を持ちます。一つは攻撃側の側面です。2025年には、完全自律型のAIペネトレーションテスター「XBOW」が、バグ報奨金プラットフォームHackerOneの米国ランキングで数千人の人間研究者と競い、AIとして初めて首位を獲得しました。XBOWが提出した脆弱性は約1,060件に上り、その中には多数のCriticalおよびHigh分類の脆弱性が含まれていました。AIはすでに脆弱性を見つける速度と量で人間を上回り始めています。

もう一つは防御側の側面です。バグバウンティや自動監査ツールから、AIが生成した脆弱性レポートが毎月大量に届きます。しかし、その一つひとつが本物なのか、誤検知なのか、どれを優先して直すべきなのかを、人手で確かめきることは困難です。発見が自動化された分、検証だけが人間の手に残され、そこが新たなボトルネックとなっています。もっともらしいが正しいとは限らない報告が洪水のように流通し、本物のリスクが偽陽性の山に埋もれてしまうのです。この構造が「Mythos問題」と呼ばれています。

金融システムのような、停止が許されず、間違いが許されず、かつ規制が厳しいシステムほど、この問題は重くのしかかります。脆弱性レポートの洪水を前に、「どれが本物かを機械的に確かめ、直すところまで自動化する」仕組みを持たない組織は、対応そのものが破綻する可能性を秘めています。

取り組みを支える両社の実績

本提携は、攻撃者視点の実践的評価と、仕様駆動の形式検証という、両社の異なる強みの組み合わせによって成り立っています。

Konoe Intelligence(攻め:AIレッドチーミング)

京都大学・東京大学発のAIセキュリティスタートアップとして、生成AIへの疑似攻撃で脆弱性を検出する「AIレッドチーム」サービスを提供しています。OpenAIが主催した「Red-Teaming Challenge – OpenAI gpt-oss-20b」において、大規模言語モデル(LLM)へのプロンプトインジェクション(AIへの指示に悪意ある入力を紛れ込ませる攻撃手法)の成功を実証し入賞するなど、AI Safetyの実践的知見を蓄積しています。

Nyx Foundation(守り:仕様駆動の形式検証)

  • Sherlock Ethereum Fusaka監査コンテスト: SPECAは、スコープ内の脆弱性15件をすべて再現したうえで、開発者の修正コミットで確認された新規バグを4件発見しました。

  • RepoAudit C/C++ベンチマーク: ブロックチェーン外のOSSにおいても既知バグ35件をすべて検出し、公開されている最高水準の精度(88.9%)を記録しています。

  • 脆弱性データベースの構築・公開: 監査で得られた知見(約4,500件)を公開し、Ethereumクライアントの脆弱性・修正履歴(2000件以上)を集約したデータベースを構築することで、Mythos対策の学習・検証基盤を整備しました。

  • イーサリアム財団の研究グラントを受領: 財団のセキュリティ運用への統合を進め、AI生成レポートの自動検証・自動パッチの仕組みづくりに取り組んでいます。

攻めの「攻撃者は実際にどこを突くか」を見抜く力と、守りの「本物かどうかを機械的に確かめる」力を持ち寄ることで、検証の自動化は机上のものだけではなく、実戦に耐えうるものとなります。

関係者コメント

Konoe Intelligence 代表取締役・勘佐圭吾

Konoe Intelligence 代表取締役・勘佐圭吾氏は、「AI性能の向上に伴いサイバーセキュリティに対する危機感は刻一刻と高まっています。日本政府の動きとしても重要インフラ等にも注意喚起並びに対策を求めています。これは特に国産によるソリューション等で対策していく必要性があります。Nyx Foundation並びに我々、Konoe Intelligenceはこの重要なテーマに対して、貢献してまいります。」と述べています。

Nyx Foundation Co-Founder・神波真聖

Nyx Foundation Co-Founder・神波真聖氏は、「セキュリティの前提が、移り変わっています。これまで脆弱性は、人が時間をかけて探し当てる、希少なものでした。いまは、AIが大量に見つけ、大量に報告してくる時代です。私たちが1年以上取り組んできたMythos対策とは、脆弱性を見つけることではなく、見つかったものが本物かどうかを仕様に照らして機械的に確かめることです。この考え方で、イーサリアムのブロックチェーン、暗号ライブラリ、分散型金融サービス、そしてOSS全般に対し、これまでに40件を超える脆弱性を発見してきました。」とコメントしています。また、仕様駆動監査の強みとして、大きなAIモデルやセキュリティエキスパートでなくてもMythos級の脆弱性を見つけられる点や、一度チェックリストを整備すれば何度でも同じ精度で監査でき、人が後からなぜそれが脆弱性なのかを追える解釈可能性を挙げています。

今後の展開

両社はまず、ソースコードの脆弱性検出から取り組みを開始します。主な提供先としては、金融を中心とした基幹システムを持つ企業を想定しており、脆弱性レポートの検証から修正までの自動化を、既存のセキュリティ体制へ統合できる形で提供することを目指しています。

本提携で構築するMythos対策の枠組みは、基幹システムに限らず、OSSやブロックチェーンの開発者・監査者にはMythosクラスの脆弱性の検出・修正に、セキュリティ研究者には形式検証とAIレッドチーミングを融合した新たな領域への早期の接続に、それぞれ活用されることを目指しています。こうした広がりを通じて、日本のセキュリティ水準の底上げに貢献していく方針です。

Konoe Intelligenceについて

Konoe Intelligenceロゴ

Konoe Intelligence 株式会社は「安全な超知能に最速で到達する」をミッションに掲げ、AI安全性を専門とする研究開発スタートアップです。解釈可能性手法を統合したAIモデルの安全性評価やモデル開発、AIに対するレッドチーミング等を提供しています。OpenAIが主催した「Red-Teaming Challenge – OpenAI gpt-oss-20b」において、Top20に日本人で唯一入賞した実績があります。

Nyx Foundationについて

Nyx Foundationロゴ

一般社団法人Nyx Foundationは、Ethereum・ブロックチェーンに特化した私設の研究機関です。形式検証とセキュリティを専門領域とし、次世代プロトコルの安全性向上に取り組んでいます。Ethereum Foundationやブロックチェーン企業・大学との連携を進め、国際的な学術成果と実績を上げています。

AI Workstyle Lab編集部コメント

今回のNyx FoundationとKonoe Intelligenceの提携は、AI時代のビジネスにおけるセキュリティのあり方を再定義する可能性を秘めています。特に金融分野のような厳格なセキュリティが求められる基幹システムを持つ企業にとって、AIが大量に生成する脆弱性レポートの検証と修正を自動化できることは、運用コストの大幅な削減とセキュリティレベルの向上に直結するでしょう。AIレッドチーミングと形式検証の融合は、単なる技術革新に留まらず、企業が競争力を維持し、新たなAI活用を進める上での信頼性の基盤となり得ます。将来的には、より広範な産業でのAI導入を加速させる重要な一歩となることが期待されます。

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この記事の情報
記事の著者
AI Workstyle Lab 編集部

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