伯東とシャロニクスが協業し「産業向けAIサービス」を提供開始、Ambarella社製SoCとAIモデルのファインチューニングで現場AIをワンストップで実現

伯東とシャロニクスが協業し「産業向けAIサービス」を提供開始
現場AI導入の課題を解決する三位一体のアプローチ
高性能エッジAIでリアルタイム処理とプライバシー保護を両立
- AI Workstyle Lab編集部コメント
多様な産業分野でのユースケース
セキュリティとプライバシーへの配慮
伯東とシャロニクス、今後の展望

伯東とシャロニクスが協業し「産業向けAIサービス」を提供開始

伯東株式会社（以下、伯東）と株式会社シャロニクス（以下、シャロニクス）は、米国Ambarella社製SoC（System-on-a-Chip：複数の機能を一つの半導体チップに統合したもの）を中心としたエッジAIハードウェアと、AIモデルのファインチューニング（事前に学習されたAIモデルを特定のタスクやデータに合わせて再学習させ、性能を向上させること）を組み合わせた「産業向けAIサービス」の共同提供を開始しました。

この協業により、物流、製造、小売、インフラ、ヘルスケア、公共安全など、現場ごとに異なる判定基準や運用要件に合わせたAIモデルを継続的に改善できる体制が実現されます。

現場AI導入の課題を解決する三位一体のアプローチ

生成AIやマルチモーダルAIの実用化が進む一方で、実際に現場でAIを活用するには、以下の3つの要素が重要です。

カメラ、SoC、通信などハードウェアの適切な選定と保守
現場固有のデータを活用したモデルの最適化
継続的な運用を支えるMLOps（Machine Learning Operations：機械学習モデルの開発から運用までの一連のライフサイクルを効率的に管理する仕組み）の仕組み

本サービスでは、伯東が最先端のSoCと調達・設置・保守網を、シャロニクスが現場データに沿ったCLIP（Contrastive Language-Image Pre-Training：画像とテキストの関連性を学習するAIモデル）やVLM（Vision Language Model：画像とテキストの両方を理解・生成できるAIモデル）、YOLO（You Only Look Once：リアルタイム物体検出に特化したAIモデル）などのAIモデルのファインチューニングと運用を担うことで、これらの課題を一貫して解決し、現場でスピーディーに機能するAIの実現を目指します。

高性能エッジAIでリアルタイム処理とプライバシー保護を両立

本サービスのエッジ実装には、Ambarella社製AIビジョンプロセッサCV72、N1-655（5nm、CVflow®第3世代）を搭載したAI BOXが中核を担います。CVflow®は、CNN/DNNに加えてTransformer向けのアクセラレータを内蔵しており、高性能と低消費電力の両立を実現しています。

これにより、サーバーへの依存を避け、オンデバイスで高度なAI推論を完結できます。これは、通信遅延の削減やプライバシー保護の強化に大きく貢献します。

推論面では、YOLOなどの従来型AIモデルに加え、CLIP、VLM、軽量LLM（Large Language Model：大規模言語モデル。自然言語処理に用いられる）のエッジ動作に対応しています。ユースケースに応じて、学習時に見たことのないデータに対しても推論能力を発揮するゼロショット特性を活かした検知から、ファインチューニングによる特化まで柔軟に選択可能です。これにより、現場データ起点のカスタムAIを少量データから短サイクルで立ち上げ、KPIに直結する改善を継続していくことができます。

AI Workstyle Lab編集部コメント

エッジAIは、現場でのリアルタイム処理が求められる業務において非常に有効な技術です。特に、カメラ映像を分析する工場や倉庫、店舗などでは、クラウドにデータを送る手間やコスト、通信遅延の問題が課題となることがあります。今回のサービスは、デバイス側でAI処理を完結できるAmbarella社の高性能SoCを活用することで、これらの課題を解決し、現場のDX（デジタルトランスフォーメーション）を加速させる可能性を秘めています。また、現場固有のデータを活用したファインチューニングは、AIがより実用的な精度を発揮するために不可欠です。具体的なユースケースが多岐にわたるため、多くの企業にとって導入の検討価値があるでしょう。

多様な産業分野でのユースケース

本サービスは、様々な産業分野での活用が期待されています。

物流・倉庫
- 積み荷状態監視：荷崩れ、積載過多、はみ出し、固定不良の自動検知、パレット割れ・ラップ剥がれの早期発見、ドック滞留の可視化。
- マルチラベル・バーコード補助：ラベル欠損時の代替判定、誤積み候補のアラート。
製造
- 外観検査の言語化：作業標準書の文言（例：「エッジ欠け」「打痕」など）をCLIPのテキスト側へ表現し、ラインごとに異なる合否基準へ素早く追従。
- 予防保全：摩耗・劣化の兆候を画像とメタ情報でスコア化。
小売り・店舗
- 棚版オペレーション：品出し漏れ、フェイス乱れ、売場ミスマッチの自動検出、期限間近品の棚替え提案。
- バックヤード最適化：入出庫のヒューマンエラー抑制。
建設・プラント・インフラ
- 安全管理：ヘルメット未着用・高所無胴綱・立入禁止域侵入などの検知、危険行動の早期警告。
- 設備点検：腐食・液漏れ・サーマル異常（外部センサー併用）を統合監視。
ヘルスケア・見守り
- 高齢者見守り：転倒兆候・徘徊リスクなど行動変容の検知（施設ローカル環境での推論）。
- 機微配慮：顔の匿名化、特徴量のみ保存などのプライバシー設計も可能。
公共安全・スマートシティ
- 不法投棄・放置物、危険駐停車、路面異常の検出と通報フロー連携。

セキュリティとプライバシーへの配慮

本サービスでは、セキュリティとプライバシー保護にも重点を置いています。

エッジ推論を基本とし、個人情報を外部送信しない構成を採用しています。
学習時は顔ぼかし、マスキングや特徴量のみの保存により、匿名化とデータ最小化を徹底しています。
モデル更新や検出・アラート履歴を追跡・改ざん検知可能な形で保全し、監査可能性を担保しています。

伯東とシャロニクス、今後の展望

今回の協業は、両社が目指す「現場で価値を生むAI」の実装に向けた重要な一歩です。シャロニクスは、マルチモーダルAIのファインチューニングとMLOps基盤を強化し、少量データからの迅速な立ち上げと継続改善を推進します。一方、伯東は、Ambarella社製SoCを中心としたエッジデバイス群と調達・設置・保守の体制を拡充し、産業現場で求められる信頼性と拡張性を提供します。

両社は「現場装置×AI」の普及を通じて、物流・製造・小売・インフラ・見守り等におけるKPI改善とDXの加速、さらには社会課題の解決と新たな価値創出に貢献していく方針です。

両社コメント

伯東株式会社取締役石下裕吾氏

「シャロニクス社との協業により、ハードウェア、ソフトウェア、保守・運用までのワンストップソリューションを提供することが可能になりました。EdgeAI分野では『プライバシーの保護』、『通信負荷の低減による負荷分散』、『リアルタイム処理』の3つが重要な要素として求められています。Ambarella社の高性能生成AI BOXに、シャロニクス社のファインチューニングを組み合わせて提案することで、お客様の多様なニーズに応える高度なソリューションを提供してまいります。」

株式会社シャロニクス代表取締役清水雄介氏

「私たちシャロニクスは、産業・社会インフラ分野におけるAI開発において、現場が抱えるさまざまな制約の下で継続的な改善を実現していくことが重要だと考えています。本協業では、シャロニクスが培ってきたマルチモーダルAIおよびMLOpsの知見と、伯東社が強みを持つAmbarella社製SoCをはじめとするエッジAIハードウェアを組み合わせることで、現場データを起点とした伴走型ソリューションの提供を目指します。今後も伯東社とともに、AIを活用した産業現場の生産性向上と社会課題の解決に取り組んでまいります。」