伯東とシャロニクスが協業、Ambarella社製SoC活用で産業向けカスタムAIをワンストップ提供開始

AI Workstyle Lab編集部コメント：現場の「使えるAI」を加速させる協業

生成AIやマルチモーダルAI（複数の種類のデータを組み合わせて処理するAI）の実用化が進む中、AIを実際に現場で活用するには、ハードウェアの選定からモデルの最適化、継続的な運用を支えるMLOps（機械学習モデルの開発から運用までを一貫して管理する手法）の仕組みまで、多角的な視点が必要です。今回の伯東とシャロニクスの協業は、ハードウェアとソフトウェア、そして運用体制を三位一体で提供することで、まさに現場で「使えるAI」の導入を強力に後押しするものと言えるでしょう。特に、高性能なエッジAI（デバイス自体でAI処理を行う技術）と柔軟なファインチューニングが組み合わされることで、各企業の固有の課題に合わせたAIソリューションが、より迅速かつ効率的に実現されることが期待されます。

現場データ起点で精度と運用を両立する新サービス

本サービスでは、物流、製造、小売、インフラ、ヘルスケア、公共安全といった多様な現場において、それぞれ異なる判定基準や運用要件に合わせたAIモデルを継続的に改善できる体制が実現されます。

サービスの核となる技術

エッジ実装には、Ambarella社製AIビジョンプロセッサCV72、N1-655（5nm、CVflow®第3世代）を搭載したAI BOXが中核に据えられています。CVflow®は、CNN/DNN（畳み込みニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワーク）に加えてTransformer向けアクセラレータを内蔵しており、高性能と低消費電力の両立を実現します。これにより、サーバーへの依存を避けつつオンデバイスで高度なAI推論を完結でき、通信遅延の削減やプライバシー保護の強化に貢献します。

柔軟なAIモデルの活用

推論面では、YOLO（You Only Look Once：リアルタイム物体検出アルゴリズム）などの従来型AIモデルに加え、CLIP（Contrastive Language-Image Pre-Training：画像とテキストの関連性を学習するAIモデル）、VLM（Vision Language Model：画像と自然言語を統合的に理解・生成するモデル）、軽量LLM（Large Language Model：大規模言語モデルを小型化・効率化したもの）のエッジ動作に対応しています。これにより、ユースケースに応じてゼロショット特性（学習データにないタスクでも対応できる能力）を活かした検知から、ファインチューニングによる特化まで柔軟に選択可能です。現場データに基づいたカスタムAIを少量データから短期間で立ち上げ、KPI（Key Performance Indicator：目標達成度を測る主要業績評価指標）に直結する改善を継続します。

主なユースケース例

物流・倉庫
- 積み荷状態監視：荷崩れ、積載過多、はみ出し、固定不良の自動検知、パレット割れ・ラップ剥がれの早期発見、ドック滞留の可視化。
- マルチラベル・バーコード補助：ラベル欠損時の代替判定、誤積み候補のアラート。
製造
- 外観検査の言語化：作業標準書の文言（例：「エッジ欠け」「打痕」など）をCLIPのテキスト側へ表現し、ラインごとに異なる合否基準へ素早く追従。
- 予防保全：摩耗・劣化の兆候を画像とメタ情報でスコア化。
小売・店舗
- 棚版オペレーション：品出し漏れ、フェイス乱れ、売場ミスマッチの自動検出、期限間近品の棚替え提案。
- バックヤード最適化：入出庫のヒューマンエラー抑制。
建設・プラント・インフラ
- 安全管理：ヘルメット未着用・高所無胴綱・立入禁止域侵入などの検知、危険行動の早期警告。
- 設備点検：腐食、液漏れ、サーマル異常（外部センサー併用）を統合監視。
ヘルスケア・見守り
- 高齢者見守り：転倒兆候・徘徊リスクなど行動変容の検知（施設ローカル環境での推論）。
- 機微配慮：顔の匿名化、特徴量のみ保存などのプライバシー設計も可能です。
公共安全・スマートシティ
- 不法投棄・放置物、危険駐停車、路面異常の検出と通報フロー連携。

セキュリティとプライバシーへの配慮

本サービスでは、エッジ推論を基本とし、個人情報を外部送信しない構成を採用しています。学習時には顔ぼかしやマスキング、特徴量のみの保存により、匿名化とデータ最小化を徹底します。モデル更新や検出・アラート履歴は追跡および改ざん検知可能な形で保全され、監査可能性が担保されます。

協業の意義と今後の展望

今回の協業は、両社が目指す「現場で価値を生むAI」の実装に向けた重要な一歩です。シャロニクスはマルチモーダルAIのファインチューニングとMLOps基盤を強化し、少量データからの迅速な立ち上げと継続改善を推進します。一方、伯東はAmbarella社製SoCを中心としたエッジデバイス群と調達・設置・保守の体制を拡充し、産業現場で求められる信頼性と拡張性を提供します。両社は「現場装置×AI」の普及を通じて、物流、製造、小売、インフラ、見守りなどにおけるKPI改善とDX（Digital Transformation：デジタル技術を活用してビジネスや社会を変革すること）の加速、さらには社会課題の解決と新たな価値創出に貢献していく方針です。

両社コメント

伯東株式会社取締役石下裕吾氏

「シャロニクス社との協業により、ハードウェア、ソフトウェア、保守・運用までのワンストップソリューションを提供することが可能になりました。EdgeAI分野では『プライバシーの保護』、『通信負荷の低減による負荷分散』、『リアルタイム処理』の3つが重要な要素として求められています。Ambarella社の高性能生成AI BOXに、シャロニクス社のファインチューニングを組み合わせて提案することで、お客様の多様なニーズに応える高度なソリューションを提供してまいります。」

株式会社シャロニクス代表取締役清水雄介氏

「私たちシャロニクスは、産業・社会インフラ分野におけるAI開発において、現場が抱えるさまざまな制約の下で継続的な改善を実現していくことが重要だと考えています。本協業では、シャロニクスが培ってきたマルチモーダルAIおよびMLOpsの知見と、伯東社が強みを持つAmbarella社製SoCをはじめとするエッジAIハードウェアを組み合わせることで、現場データを起点とした伴走型ソリューションの提供を目指します。今後も伯東社とともに、AIを活用した産業現場の生産性向上と社会課題の解決に取り組んでまいります。」