AIとロボットが拓くバイオDXの最前線:アスタミューゼが最新技術動向レポートを発表
アスタミューゼ株式会社は、AIやロボットを活用したバイオDX(Bio-Digital Transformation)に関する最新技術動向レポートを発表しました。このレポートは、同社が保有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどの研究開発情報)を網羅的に分析し、バイオテクノロジー分野におけるデジタル変革の最前線を明らかにしています。
AI Workstyle Lab編集部では、この重要なレポートから、AIとロボットが私たちの働き方やビジネスにどのような変革をもたらすのか、その実務的な視点から解説いたします。

バイオDXとは何か?
バイオDXとは、バイオテクノロジー領域におけるAIやロボットなどを活用した自動化・効率化の取り組みを指します。この分野では、厳格な倫理審査や安全規制、24時間365日の継続的なケアが必要な生物・細胞培養、繊細な実験管理と再現性の確保、そして膨大な実験データやゲノムデータの解析といった、他の分野と比較して研究者の負荷が重いという課題が長年存在していました。
AIやロボットによる自動化は、これらの課題を解決し、研究開発の速度と精度を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。
AlphaFoldが切り開いたバイオテクノロジーの未来
バイオDXが注目される大きなきっかけの一つは、2018年にGoogle DeepMind社が発表したAI「AlphaFold」です。このAIは、アミノ酸配列を入力するだけでタンパク質の立体構造を容易かつ高精度に予測することを可能にしました。2022年7月には、約2億種類に及ぶ既知のタンパク質の構造予測が実施されています。
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Google DeepMind “AlphaFold reveals the structure of the protein universe”
タンパク質の構造予測は、製薬における抗体や薬剤の設計、工業における酵素の反応効率化など、バイオテクノロジーの根幹をなす要素です。これまで実験的手法では多大な労力と低い成功率が課題でしたが、AlphaFoldの登場により、そのプロセスは劇的に効率化されました。この成果により、AlphaFoldの研究開発に携わったGoogle DeepMind社の研究者は2024年のノーベル化学賞を受賞しています。AIが基礎科学の進展に直接貢献し、世界的な評価を得たことは、AIの可能性を改めて示すものと言えるでしょう。
日本におけるバイオDX推進の動き
日本でもバイオDXの推進は活発化しています。文部科学省が令和3年度の戦略目標に「『バイオDX』による科学的発見の追及」を掲げたことが、その大きなきっかけとなりました。
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文部科学省「令和3年度の戦略的創造研究推進事業の戦略目標等の決定について」
これにより、バイオDXはイノベーションの源泉となる基礎研究として位置づけられ、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)によって本格的に推進されることになりました。
2022年4月には、広島大学が代表機関となる「Bio-Digital Transformation(バイオDX)産学共創拠点」が、JSTの支援施策である「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」に採択されました。この採択により、JSTから年あたり最大3.2億円、最長10年にわたる予算支援が決定されています。同拠点では、「誰ひとり取り残さず持続的な発展を可能とする、バイオエコノミー社会の実現」をビジョンに掲げ、ゲノム育種、バイオ医薬品、バイオものづくりといった領域でのバイオDX活用を進めています。
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Bio-Digital Transformation(バイオDX)産学共創拠点「2022-04-01:COI-NEXT本格型に昇格!」
研究予算動向から見るバイオDXのトレンド
アスタミューゼのレポートでは、グラント(科研費などの競争的研究資金)のキーワード出現数の年次推移を分析する「未来推定」という手法を用いて、萌芽的な技術分野を予測しています。

(図1:バイオDXに関わるグラントの研究概要にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移)
図1を見ると、「atmps」(先端医療医薬品)、「organoids」(オルガノイド:幹細胞から作られるミニチュア臓器)、「biopharmaceutical」(バイオ医薬品)といったバイオ医薬関連のキーワードが目立ち、細胞医療の自動化への資金提供が特に活発であることが分かります。また、「biofoundry」(バイオファウンドリー:自動化されたバイオ生産システム)や「biomanufacturing」(バイオ製造)などのキーワードからは、医療だけでなく化学などの産業分野においても、微生物や細胞を用いた物質生産の自動化への取り組みが進んでいることが読み取れます。
さらに、「crispr」(CRISPR:遺伝子編集技術)や「base-edits」(塩基編集)、「microfluidic-enabled」(マイクロ流体支援スクリーニング)といったキーワードは、より自由度の高い遺伝子編集や、編集された生物の選別といった基礎的な実験操作の自動化・改革を目指す研究開発が実施されていることを示しています。これは、バイオ製造の課題であった製造速度の向上を実現するための、根本的なアプローチと言えるでしょう。
これらの動向は、AIが単なるデータ解析ツールに留まらず、研究開発の設計、実験、評価といった一連のプロセス全体を自動化・最適化する「R&Dコパイロット」のような役割を担い始めていることを示唆しています。これにより、研究者はより創造的なタスクに集中できるようになるはずです。
注目の研究プロジェクト事例
レポートでは、直近の研究プロジェクト事例も紹介されています。
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BioFoundry: A BioFoundry for Extreme & Exceptional Fungi, Archaea and Bacteria
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機関/企業:UC Santa Barbara 他
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グラント名/国:NSF/米国
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概要:高温・酸性といった極限環境に生息する微生物に特化したバイオファウンドリーを設立。機械学習支援による微生物探索、遺伝子と機能の関係解析、培養を介した試作品製造の自動化を目指します。
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BIOS: The bio-intelligent DBTL cycle, a key enabler catalysing the industrial transformation towards sustainable biomanufacturing
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研究機関/企業:LifeGlimmer GmbH 他
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グラント名/国:CORDIS/EU
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概要:デジタルツイン(物理的なモノやプロセスの仮想レプリカ)を活用したDBTLサイクル(Design-Build-Test-Learn:設計・構築・試験・学習の反復サイクル)を開発。AI統合により予測精度を向上させ、培養の自律制御に挑戦しています。
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High-throughput ultrasound-based volumetric 3D printing for tissue engineering
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機関/企業:University of Münster
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グラント名/国:CORDIS/EU
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概要:高速体積3Dプリンティング技術と超音波粒子操作を組み合わせ、センチメートルスケールの心筋構造体をハイドロゲル内に作成。ロボットによる超音波照射、マイクロ流体ノズル、温度制御の完全自動化を進めています。
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これらの事例は、AIとロボットがバイオテクノロジーの様々な段階で、いかに具体的な自動化と効率化を実現しているかを示しています。特にデジタルツインの活用は、物理的な実験を減らし、仮想空間でのシミュレーションと最適化を可能にすることで、開発期間とコストを大幅に削減する潜在力を持っています。
世界を牽引する米国の動向
国別の研究動向を見ると、バイオDX関連のグラントプロジェクト件数、および研究配賦額(予算)のどちらも米国が1位であり、配賦額は増加傾向にあります。EUも2020年頃から件数と額を増やしていますが、米国との間には依然として大きな差があります。

(図2:バイオDXに関連するグラントプロジェクトの件数が上位5か国の動向)

(図3:研究プロジェクト配賦額の国別推移)
米国では、2010年から国防高等研究計画局(DARPA)が「Living Foundries」プログラムを開始し、約1億1,000万ドルの予算を投じて、複雑な化学物質や材料を生物学的に製造するためのプラットフォーム構築を目指してきました。このプログラムは、生物を用いた製造プロセスの設計・構築・試験の自動化も対象としており、米国が早期からバイオDXを国家的な重要課題として捉えていたことが分かります。
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DARPA “DARPA Successfully Transitions Synthetic Biomanufacturing Technologies to Support National Security Objectives”
さらに、2018年から2021年に活動した人工知能国家安全保障委員会(NSCAI)の「NSCAI最終報告書」では、AIと生物学が重なる領域への投資が米国政府に提言されています。
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NSCAI “The Final Report”
そして2024年には、米国議会により設立された「新興バイオテクノロジーに関する国家安全保障委員会(NSCEB)」が、「AIxBio White Paper Series」を発表し、バイオテクノロジーとAIの融合領域を「AIxBio」と名付けました。これらの動きは、米国政府がこの融合領域を戦略的に重視し、今後も研究開発投資をリードしていくという強い意思の表れと言えるでしょう。
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NSCEB “AIxBio White Paper 1: Introduction to AI and Biotechnology”
AI Workstyle Lab編集部による解説
今回のアスタミューゼのレポートは、バイオテクノロジーという専門分野におけるAIとロボットの具体的な活用事例と、それがもたらすインパクトを明確に示しています。
AI Workstyle Lab編集部としては、このバイオDXの動向から、あらゆる分野のビジネスパーソンが学ぶべき重要な示唆があると見ています。AIは、これまで人間が膨大な時間と労力を費やしてきた「実験・試行錯誤」のプロセスを、データ駆動型のアプローチで革新する力を持っています。AlphaFoldがタンパク質構造予測の常識を覆したように、AIはそれぞれの専門分野における「ボトルネック」を特定し、その解決策を提示する可能性を秘めているのです。
特に、研究開発現場だけでなく、製造業における品質管理、新素材開発、医療分野での診断支援など、多岐にわたる領域でAIとロボットによる自動化・効率化は加速するでしょう。企業は、自社のコア技術とAIをどのように融合させるか、そしてAIがもたらす新たな価値創造の機会をいかに捉えるかを戦略的に考える必要があります。未来の働き方は、AIを「道具」としてだけでなく、「協働者」として捉え、その能力を最大限に引き出すスキルが求められる時代へと確実に移行しています。
レポート詳細とアスタミューゼのサービス紹介
本記事では、レポートの一部を抜粋してご紹介しました。バイオDX技術に関する特許出願の動向分析、および全体のまとめについては、アスタミューゼ株式会社のウェブサイトで詳細をご確認いただけます。
アスタミューゼ株式会社は、「バイオDX」に限らず、様々な先端技術や先進領域における分析を日々実施し、企業や投資家に向けて情報提供を行っています。R&D戦略、M&A戦略、事業戦略の構築に役立つ精度の高い将来予測や、プレイヤー分析、キーパーソンの探索なども可能です。ご興味をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。
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コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/
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本記事は、各社の公式発表および公開情報を基に、AI Workstyle Lab編集部が 事実確認・再構成を行い作成しています。一次情報の内容は編集部にて確認し、 CoWriter(AI自動生成システム)で速報性を高めつつ、最終的な編集プロセスを経て公開しています。

