AIが核融合炉の未来を拓く:Spakonaと核融合科学研究所の実証実験が示すAIの可能性

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共同研究の背景

日本政府は2025年6月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略(核融合戦略)」を改定し、2030年代の発電実証に向けた方針を明確にしました。核融合エネルギーは、太陽と同じ原理で膨大なエネルギーを生み出す、安全でクリーンな次世代エネルギー源として注目されています。CO₂を排出せず、燃料となる重水素なども海水から得られるため、脱炭素社会とエネルギー安全保障の両立に寄与する技術として期待されています。

しかし、核融合反応を維持するには、1億度を超えるプラズマ状態を長時間安定的に保つ必要があり、その制御は極めて困難です。中でも、プラズマが突然不安定化して消失してしまう「放射崩壊」などの現象は、核融合炉実現の大きな障壁とされています。

こうした課題の解決に向け、SpakonaのAIエンジニアとNIFSの核融合研究者による共同研究チームは、AIを活用して放射崩壊の発生を予測し、制御する技術の実証実験を実施しました。

AIによる核融合プラズマ制御の実証実験に至る経緯の概要

研究チームは、NIFSが保有する大型ヘリカル装置(LHD)における放射崩壊現象の実験データベース[1]を活用し、プラズマの状態を監視して放射崩壊の兆候を捉えるためのAIモデルを開発しました。このAIは、実験から得られる電子温度や電子密度、不純物発光強度などのセンサーデータをリアルタイムで分析し、放射崩壊が起きる前にその発生を予測するよう学習しています。AIをLHDの制御システムに接続し、AIが放射崩壊を予測した際に自動で粒子供給や加熱パワーに関する制御信号を発信して、リアルタイムで外部制御を実施する仕組みを構築しました。

AIモデルの詳細

時系列スペクトル解析に特化した決定木アンサンブル学習(複数の決定木モデルを組み合わせて予測精度を高める機械学習手法)が採用されました。先行研究をもとに放射崩壊発生の100ミリ秒前を予測起点とし、異なるサンプリングレートを持つ分光データとプラズマパラメータを統一的に前処理。崩壊前1秒間を数区間に分割し、各区間の統計量と時間変化率を特徴量として抽出・学習しています。

AIモデル構築とLHD接続の工夫:円滑かつ迅速な実装を支えた技術的基盤

今回の実証実験では、NIFSが保有するLHDに対し、SpakonaのAI制御モデルを短期間で実装することに成功しました。これは、NIFSが従来から整備してきた制御系・通信基盤が汎用設計として構築されていたことに加え、Spakonaが独自に開発したAI技術を柔軟に組み合わせられる設計思想を共有していたことによるものです。

AIモデル自体は、過去の実験データをもとに約半年かけて構築され、LHDへの実装はわずか1週間程度で完了しました。円滑かつ迅速な統合は、先人が整備してきたデータベースやハードウェア基盤と、その上にSpakonaのAI技術を組み込むことができたため実現しました。

研究機関とAI企業の強みを活かした柔軟なシステム設計と迅速な実装体制が、今回の実証実験実施の大きな原動力となりました。

複数の男性がオフィス環境で協力して作業している様子

試験項目:200ミリ秒前の予測と安定化の確認

実験では、AIが放射崩壊が発生する200ミリ秒以上前に兆候を検知し、制御信号を送ることで複数条件下で崩壊が抑制できるかどうかを試験しました。主な試験項目は以下のとおりです。

  1. 予測性能
    AIにより、放射崩壊が起きる200ミリ秒以上前にその兆候を捉えることを試行しました。これは制御介入のための時間的余裕を確保するためです。
  2. プラズマの安定化
    AI制御により、複数の実験条件下(燃料供給や電子サイクロトロン加熱の制御性能、制御シナリオに関する知見の獲得)で放射崩壊の発生を抑制し、プラズマを安定維持できるかどうか試行しました。

今後の取り組み:AIの核融合炉への有効性を検証し、今後成果発表へ

詳細な解析は今後となりますが、本実証実験によって、AI技術の核融合炉運転における有効性を検証する研究の一連の流れを世に示すことができました。

AIを基盤としたシステムを実際の実験装置に統合し、プラズマをリアルタイムで制御できるかどうかの実証実験を実施したことは、将来、人間の熟練者だけでなく、AIが核融合炉の運転を担う可能性にもつながる取り組みであると期待されます。また、AIエンジニアと核融合研究者との分野横断的・異文化協力により、短期間で実証実験まで実施した本事例は、AIエンジニアが先端科学技術分野にインパクトを与え、研究開発を加速させうることを示す好事例とも言えるでしょう。

放射崩壊現象のデータ駆動的予知・回避については、核融合分野の研究者による先行研究[2][3]などもすでに発表されています。今回、AI専門家が独自の手法で取り組んだ事例は、これら手法の違いや制御性能の定量比較など、核融合研究者にとっても非常に興味深い事例となり、放射崩壊現象の予測・回避という同一の研究ターゲットに対して、重層的かつ競争的な研究展開をもたらすものでもあります。

今回のAI制御技術とNIFSの知見が今後さらに密接に連携していくことで、核融合プラズマの制御精度や安定性が一層向上し、日本が目指す核融合原型炉および将来の商用炉の実現に向けた技術革新が、加速度的に進展していくことが期待されます。

自然科学研究機構 核融合科学研究所 教授 横山 雅之氏のコメント

眼鏡をかけたアジア系の男性が笑顔でカメラを見ています

株式会社Spakonaとの産学連携により、実機プラズマのAI制御実証実験をスピード感を持って準備、実施できたとのことです。大学院生である鈴木優也氏が構築していた実験データベース[1]の共有が重要であったとともに、核融合実験データのとてもよいユースケースとなったと述べています。また、毎回の打ち合わせを通じて、産業界の事の進め方を目の当たりにすることとなり、大学院教育・次世代人材育成にも大きな貢献となったと語っています。本プレスリリースを通じて、今回の実証実験に至るプロセスを示すことが、核融合研究へのAI分野からの参入のカンフル剤になることを大いに期待しているとのことです。

自然科学研究機構 核融合科学研究所 准教授 釼持 尚輝氏のコメント

紺色のシャツを着たアジア人男性のポートレート

今回、AI制御モデルをLHDのプラズマ制御系に統合するにあたり、短期間で実装まで到達できたことは、関係者の高い技術力と緊密な協力体制によるものであり、研究者として非常にエキサイティングな経験だったと述べています。スピード感のある実装を可能にしたのは、長年にわたり先人が整えてきた実験データベースや制御基盤が存在し、その成熟した環境の上に最新のAI技術を重ね合わせることができたからにほかならないと語っています。

今回の実証実験は、核融合炉の安定運転に向けたAI制御への重要な一歩であり、今後、より高度なプラズマ制御手法へと展開していくことが期待されるとのことです。私たちとしても、今回開発した制御基盤をさらに発展させ、産学連携を通じて核融合研究をより一層推進するとともに、原型炉時代に向けた核融合プラズマ制御の革新に貢献していきたいと考えているとコメントしています。

株式会社Spakona 代表取締役 河﨑 太郎氏のコメント

短い黒髪のアジア人男性が、黒いシャツを着て腕を組み、笑顔でカメラを見つめているポートレート

今回の実証実験では、AIが実際の実験装置と連携し、プラズマの不安定化をリアルタイムで予測・回避することを目指したと述べています。これは、AIが単なる解析ツールではなく、核融合炉の“運転者”として機能し得ることを示していく上での重要な一歩だと考えているとのことです。

今後は、AIの判断根拠の可視化や制御アルゴリズムの高度化を進めることで、より複雑な運転条件にも対応できる技術への発展を目指すとのことです。また、核融合分野に限らず、極めて複雑な現象の制御や最適化が求められる領域への応用も見据えています。AIが科学と工学の境界を越えて研究開発を支える未来を、今後も産学連携の中で追究していきたいと考えているとコメントしています。

株式会社Spakona 会社概要

最先端AI技術のコンサルティング・開発・保守を一貫して行っています。画像処理や3次元処理、数理最適化など幅広いAI技術を有し、企業課題に最も効果を発揮するAI技術の選定が可能です。トヨタ自動車株式会社やアート引越センター株式会社など、大手企業との協業実績も豊富です。

参考文献

  • [1]鈴木優也、庄司主、釼持尚輝、横山雅之、研究・技術ノート「大規模データからの放電データ探索とラベリング~LHDにおける放射崩壊を例として~」プラズマ・核融合学会誌 掲載受理済み(2025)、および、鈴木優也、庄司主、釼持尚輝、第4回「身近な研究DXコンテスト」入賞(大阪大学レーザー科学研究所、パワーレーザーDXプラットフォーム主催)

  • [2]Tatsuya Yokoyama et al., “Data-Driven Approach on the Mechanism of Radiative Collapse in the Large Helical Device”, Plasma and Fusion Research 16 (2021) 2402010.

  • [3]Yuya Suzuki et al., “Prediction of Radiative Collapse in the Large Helical Device Plasma Discharges using Convolutional Neural Networks”, Plasma and Fusion Research 20 (2025) 1402021.

AI Workstyle Lab編集部コメント

今回のSpakonaと核融合科学研究所による実証実験は、AIが人類の抱えるエネルギー問題という極めて複雑な課題に対し、具体的な解決策を提示しうることを示しています。プラズマの不安定化をリアルタイムで予測・制御する技術は、核融合炉の実現に不可欠であり、AIが単なるデータ分析ツールを超え、システムの中核を担う「運転者」となり得る未来を描いています。この技術がさらに発展すれば、AIが自律的に学習し、より高度なプラズマ制御を実現する可能性も出てくるでしょう。同時に、AIの判断根拠の透明性確保や、予期せぬ挙動への対応といった課題も浮上してきます。AIと物理学の融合が加速する中で、今後の技術的進展と倫理的側面への配慮が重要になると考えられます。

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記事の著者
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