ABWオフィスの常識が変わる?イトーキと松尾研究所が解き明かす「生産性を高める移動」の本質

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イトーキと松尾研究所がABWオフィスにおける移動と生産性の関係を分析

株式会社イトーキと株式会社松尾研究所は、共同でABW(Activity-Based Working:アクティビティ・ベースド・ワーキング)オフィスにおける従業員の移動・滞在行動と生産性関連指標の関係を職種別に分析した研究成果を、2026年度 人工知能学会全国大会(JSAI 2026)にて発表しました。本研究は、会議などに伴う受け身の移動と、業務に応じた能動的な場所選択を区別して捉えることが、ABWオフィスの運用設計において重要である可能性を示しています。

共同研究の背景

近年、労働力人口の減少や人材獲得競争が進む中で、企業には生産性の向上や従業員エンゲージメントの向上が強く求められています。ハイブリッドワークの定着により、働く場所や働き方が多様化する中で、「何が生産性を高めるのか」を客観的に捉えることは難しくなっています。

オフィス内のセンシング技術や分析技術の進展により、オフィスレイアウトデータや行動データ、組織のコンディションデータなど多角的なデータ取得が可能になりました。しかし、これらのデータを生産性や組織成果にどう結びつけ、オフィス運用の改善に活かすかは新たな課題です。

イトーキが持つオフィスづくりや働き方データの知見と、松尾研究所が持つAI・データ分析の知見を組み合わせることで、働く環境と生産性の関係をより客観的に捉えることを目指し、2025年より共同研究を開始しました。本共同研究は「オフィスにおけるマルチモーダルデータ活用による生産性評価研究」として、「生産性の定義と向上に寄与する行動・環境モデルの構築」と「生産性の客観的な計測・検証手法の確立」を目的としています。

ABWオフィス研究の目的

ABWは、業務内容に応じて働く場所を選択するオフィス運用の一つです。イトーキは2019年より本格的に運用と提案を開始しています。「高集中」「対話」「情報整理」など、目的に応じて場所を選べる柔軟性は、働き方や空間資源の有効活用に繋がります。一方で、頻繁な移動や中断が業務内容によっては負担となる可能性も指摘されてきました。

10の活動
Veldhoen + Companyの研究により作られた「10の活動」

これまでのABWに関する研究では、導入前後の満足度や主観的な生産性評価が中心でした。日々のオフィス内の位置情報データや会議予約データと成果指標を結びつけ、さらに職種別に比較する研究は限定的でした。今回の研究では、ABWやフリーアドレスの運用において、職種や業務特性に応じたオフィス運用設計に向けた示唆を得ることを目的としています。

ABWオフィス研究の概要

本研究では、2025年12月の1か月間、イトーキ本社オフィスに勤務する従業員945名を対象にBLEビーコンを活用し、オフィス内の移動・滞在データを取得しました。取得データは匿名化され、従業員ごとの行動指標が算出されました。

分析に用いられた主な行動指標は以下の4つです。

  • 一日の移動回数

  • 移動距離

  • 能動的移動回数

  • 滞在場所の偏り

生産性関連指標としては、アンケートによる個人の主観評価から得た、ビジネス・ワーク・ライフスタイルの情報をもとに、個人のソーシャル・メンタル・フィジカルコンディションを算出し、職場における生産性を定量的に評価する指標が用いられました。

職種は「設計・開発・企画(集中型)」「営業・サービス(非定型)」「管理(定型業務)」の3分類に整理され、行動指標と生産性関連指標との関係が職種別に分析されました。なお、スケジュール上の会議予約データを活用し、会議の時間帯と重複しない移動を「能動的移動」と定義することで、ABW本来の「能動的な場所選択」の評価が試みられました。

ユーザー分析と行動軌跡

ABWオフィス研究の結果

ABW研究の主な結果

研究の結果、以下の点が明らかになりました。

  • 管理業務の移動の多さは生産性を下げる可能性
    勤務時間内の移動回数については、管理(定型業務)において生産性関連指標との負の関連が確認されました。これは、移動による業務の中断や、集中を戻すための負荷が生産性に影響する可能性を示唆しています。一方、設計・開発・企画(集中型)および営業・サービス(非定型)では明確な関連は見られませんでした。

  • オフィスの移動距離が長い人ほど生産性が上がる可能性
    移動頻度と移動距離をもとにした4群比較では、長距離移動群の生産性関連指標が短距離移動群より高い結果となりました。長距離移動は、異なる部門との連携や行動量を反映している可能性があります。オフィスが広い環境では、移動距離が部門間連携の代理指標となり得ることが示唆されました。

  • 能動的な移動は生産性を上げる可能性
    会議の時間帯と重複しない「能動的移動」を分析した結果、営業・サービス(非定型)および管理(定型業務)では、生産性関連指標との正の関連が確認されました。移動全体では負の関連が見られる職種がある一方で、能動的移動では正の関連が見られたことから、会議などの予定に伴う受け身の移動・中断が、生産性と負の関連を持つ主要因である可能性が示されました。

  • 生産性向上には、オフィスでの「能動的」な動きが重要
    特定の場所にどの程度滞在が集中しているかを示す「滞在場所の偏り」については、いずれの職種においても生産性関連指標との明確な関連は確認されませんでした。この結果から、ABWオフィスの運用においては、「どこに偏って居るか」よりも、「どのように動くか」、すなわち移動の頻度・距離や能動性に着目することの重要性が示唆されました。

これらの結果は、ABWやフリーアドレスの運用において、一律に「移動を促す」「出社を促す」のではなく、会議に伴う受け身の移動・中断を抑えながら、業務に応じた能動的な場所選択を促す運用設計が重要であることを示唆しています。総務部門やファシリティ管理部門にとっては、座席数や出社率だけでなく、会議室の配置や運用、導線、部門間連携、職種別の働き方に応じたゾーニングを、データに基づいて見直すための示唆となるでしょう。

今後の共同研究に向けて

イトーキは、オフィス内の各データを組み合わせ、働く環境・働き方・働く人の生産性との関係を多角的に分析する取り組みを進めています。オフィスは構築して終わりではなく、実利用データに基づいて継続的に改善することで、働く環境の課題を把握し、「働き方」の高度化に繋げることができます。

今後は、今回の研究成果を共同研究全体の知見として発展させ、日々の業務成果やコンディションの変化、会議量、業務内容、組織状態などの要因も含めた分析へ拡張していく予定です。また、イトーキが推進するOffice3.0領域において、オフィスデータ分析サービス「Data Trekking」や「ITOKI OFFICE AI AGENTS」などと接続し、オフィス運用の自動改善・推奨に向けた研究基盤として発展させていくとしています。すでに本研究の分析システムや分析プログラムの特許出願や共同研究の知見を活かした提案も開始されており、企業の人的資本経営やオフィス投資の効果検証に資するワークプレイスづくりが推進されています。

発表概要

発表タイトル ABWオフィスにおける能動的移動を含むビーコン行動指標と生産性の職種別分析
英語タイトル Occupational Differences in the Association Between Beacon-Derived Mobility Metrics, Including Active Mobility, and Productivity in an ABW Office
発表学会 2026年度 人工知能学会全国大会(JSAI 2026)
発表日 2026年6月8日(月)
セッション 1F5-OS-10c-02
発表者 松尾研究所(王 馳景・大西 直)、株式会社イトーキ(三井 琳子・千葉 直樹・石黒 凜)

関連情報


AI Workstyle Lab編集部コメント

今回の研究結果は、ABWオフィスを導入・運用する企業にとって非常に具体的な示唆を与えています。単にフリーアドレス化するだけでなく、職種ごとの業務特性に合わせたゾーニングや、会議に伴う受け身の移動を減らし、能動的な場所選択を促す環境設計が、従業員の生産性向上に直結する可能性が示されました。この知見は、オフィス投資の効果を最大化し、人的資本経営を推進する上で不可欠な視点を提供し、効率的なワークプレイス戦略の策定に役立つでしょう。

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