専門デザイナーが少ない組織のデザイン力をどう高めるか?スパイスファクトリーと立命館大学の共同研究が示す未来

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スパイスファクトリーと立命館大学が「Design Enablement」に関する共同研究・連携を開始

デジタル・トランスフォーメーション(DX)を支援するスパイスファクトリー株式会社は、立命館大学 デザイン・アート学部と「Design Enablement(デザイン・イネーブルメント)」に関する共同研究・連携を開始しました。

この連携は、教育・研究の高度化および人材育成を目的とした連携協力協定の締結を伴います。スパイスファクトリーの執行役員 Chief Design Officer(最高デザイン責任者)である本村 章氏は、立命館大学 デザイン科学研究所の客員研究員に就任する予定です。

今後は、スパイスファクトリーが社会課題領域(教育、医療介護、公共、気候変動、ガバナンスなど)で取り組んできたDX実践を研究フィールドとして提供します。これにより、実務で得られた知見をもとにデザイン・イネーブルメント理論の実証研究と社会実装が進められます。本連携は研究活動に留まらず、教育や人材育成を含む幅広い分野へと発展していく見込みです。

本取り組みには、立命館大学 デザイン・アート学部 教授であり、デザイン科学研究所DML(Design Management Lab)チーフ・プロデューサーを務める八重樫 文氏が参画しています。八重樫氏は、2025年度経済産業省・情報処理推進機構(IPA)「デザインマネジメント人材の育成に関するタスクフォース」の主査も務めており、その知見が本研究・連携に活かされます。

詳細については、立命館大学 デザイン・アート学部のニュースページでも確認できます。

専門デザイナーが少ない組織における「デザイン実装力」の課題

DX推進の必要性が高まる一方で、多くの組織では専門デザイナーを十分に配置できない状況にあります。このような状況下で、サービスや業務、組織のあり方の再設計が求められており、ビジネス担当者やエンジニア、現場の実務者がデザイン的な思考と判断を担うことが常態化しています。

ここで問われているのは、「いかにデザイナーを増やすか」ではなく、専門デザイナーが常に介在しなくても、デザインの実装力を組織全体に分散させ、持続させる方法です。

さらに、生成AIの実用化により、可視化やプロトタイピングのコストが急速に低下しています。経済産業省『デジタル経済レポート 2025』も、実装・運用といった中流プロセスの付加価値低下を指摘しており、組織が向き合う複雑な問題のフレーミングそのものを担う力、すなわち「デザイン的思考」を、誰がどのように組織内で担うかが新たな課題となっています。

この問題意識は、2025年度経済産業省・IPA「デザインマネジメント人材の育成に関するタスクフォース」(主査:八重樫 文氏)で議論されている、非デザイン人材を対象としたデザインマネジメント実践人材の育成とその評価制度設計とも共通しています。

デザイン・イネーブルメントとは

デザイン・イネーブルメントは、一部の専門家だけでなく、あらゆる人々がデザインに参加できるような環境づくりや仕組み化などの介入を指す概念です。

この概念は、1960年代以降のロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)におけるデザイン研究の蓄積や、Nigel Crossが提唱した「Designerly ways of knowing(デザイナー特有の思考の仕方や問題解決へのアプローチ)」を基盤としています。

デザイン・イネーブルメントが目指すのは、企業や現場のチームが実現したい「望ましい状態」を起点に、チームや担当者自身がデザインできるようになる状態を持続的に構築することです。プロジェクト終了後も組織の中に何が残るかという視点が、この理論の基本的な考え方とされています。

デザインの知を組織内に分散させ持続させるプロセスは、以下の三つの方向性で記述されます。

  • ひきだす(Pulling):相手の文脈・関心・実現したいことを対話から引き出し、共創する

  • つたえる(Pushing):形式知としてのデザイン知識を、講義やガイドラインを通じて移転する

  • みせる(Demonstrating):実践そのものを共有し、暗黙知としてのデザインを伝達する

生成AIの普及により、誰もがアイデアを形にできる時代になりつつありますが、「何をつくるべきか」「どのような価値を届けるべきか」を構想する力の重要性はむしろ高まっています。デザインは、一部の専門職能を超え、数学や英語のような一般教養に近いソフトスキルとして組織に根づくべき領域となりつつあり、デザイン・イネーブルメントはその実装を支える設計思想として位置づけられています。

「デザイン・イネーブルメント」に関する詳細は、以下の記事も参考にしてください。

共同研究・連携内容

本共同研究・連携は、以下の3つの柱で進められます。

  1. デザイン・イネーブルメントの実証研究
    地方自治体、行政組織、民間企業におけるDX実践の中で、デザインの知がどのように組織内に分散し、機能しているかを観察・記述します。スパイスファクトリーが携わるプロジェクトや組織実践を対象に、定性的な事例研究(インタビューや参与観察など)を通じてデザイン・イネーブルメント理論を深化させ、公共DXや組織変革領域における新たな知見創出を目指します。

  2. 組織変革・人材開発プログラムの研究開発
    研究を通じて得られた知見は、スパイスファクトリーが提供するDX支援、組織開発支援、人材開発プログラムに反映されます。具体的には、「個人」「チーム」「組織」「共創」の4つの軸で展開するデザイン・イネーブルメント関連サービスへの理論的フィードバックが行われます。また、デザイン・アート領域における教育連携や寄附講座、人材育成に関する取り組みも今後の展開として視野に入れられています。

  3. 研究成果の社会発信
    研究成果は、査読論文、学会発表、実務者向けイベント、寄稿などを通じて広く社会へ発信され、公共・行政領域を含むDX実践における共通言語の形成に貢献することを目指します。スパイスファクトリーが2026年2月に第1回を開催した「Design Enablement Forum」も、引き続き社会発信の場として活用される予定です。

今後の展望

スパイスファクトリーは今後も、理論と実践を往還させながら、社会課題解決に向けたDXやデザイン実践の高度化に加え、教育・研究・人材育成への貢献にも取り組んでまいります。本研究・連携を通じて得られた知見は社会へ還元され、公共・行政領域を含むさまざまな現場における価値創出や組織変革に貢献していくことが期待されます。

関係者のコメント

スパイスファクトリー株式会社 執行役員 Chief Design Officer/HCD-Net認定 人間中心設計専門家 本村 章氏

本村 章氏

「デザイン・イネーブルメント研究の出発点には、専門デザイナーがいない、あるいは限られた人数しかいない組織のなかで、デザインに関わる判断や問いを実際に担っているのは誰か、という現場で繰り返し突きつけられてきた問いがあります。組織のなかで実質的にデザインの役割を担っている人々の営みを、理論として可視化し、再び実践へと返していく。生成AIによって可視化のコストが下がりつつある今、改めて問われるのは、組織のなかにデザインの実装力をいかに蓄積し、持続させるかという課題です。この問いに、立命館大学 デザイン・アート学部、そしてデザイン・イネーブルメント理論の共同提唱者である八重樫先生とともに、より広い研究の地平から取り組めることを大変嬉しく思います。」

立命館大学 デザイン・アート学部 教授/デザイン科学研究所 DML(Design Management Lab)チーフ・プロデューサー 八重樫 文氏

八重樫 文氏

「デザイン・イネーブルメントは、組織の中にある創造的な力を引き出し、人々が自ら価値を構想し実践へ移していくための条件を整える考え方です。これは、立命館大学 デザイン・アート学部が育成を目指すCX(Creative Transformation)人材の考え方と深く重なります。DXがデジタル技術を通じて社会を変革していくように、CXはクリエイティブな発想と実践を通じて社会生活や組織のあり方に変化を促していくものです。スパイスファクトリー株式会社が社会課題領域で培ってきた実践は、この力を研究するうえで重要なフィールドです。本連携を通じて、現場におけるデザイン実践のあり方を丁寧に検討し、デザイン・イネーブルメントの理論的深化と社会実装を進めていきたいと考えています。」

関連情報

AI Workstyle Lab編集部コメント

今回のスパイスファクトリーと立命館大学の連携は、DX推進における「デザイン」の役割が専門職の枠を超え、組織全体の共通言語となる可能性を示唆しています。特に、専門デザイナーの確保が難しい中小企業や地方自治体にとって、現場の非デザイナー人材がデザイン思考を身につける「デザイン・イネーブルメント」は、サービス開発や業務改善の大きな推進力となるでしょう。生成AIの進化により、アイデアの可視化が容易になる中で、本質的な「何をつくるべきか」を構想する力が、ビジネスの成否を分ける鍵となると考えられます。

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記事の著者
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