AI事業開発の最前線:SIGQ金築氏が語るフィジカルAIと信頼性設計の重要性

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国家予算に匹敵するAI時代のビジネスのスケール感

講演の冒頭で金築氏は、まずAIの技術的な基礎について解説しました。一般的にChatGPTやClaude、Geminiなどに触れていると、AIとLLM(大規模言語モデル)を同一視しがちですが、LLMはあくまでAIの一種にすぎません。AIという広範な概念の中にディープラーニングや機械学習があり、その中でも近年特に存在感を強めているのがLLMという位置付けです。

LLMが人間の問いに対して自然な回答を返せるのは、書籍やウェブ上の膨大なデータから、文脈に応じた言葉の繋がり方やパターンを学習しているためです。文章が入力されると、大量の候補の中から次に続く言葉の確率計算を行い、最も「それらしい」言葉を出力することで、意味の通った回答が生成されます。この仕組みを活用したサービスは、契約書の要約、翻訳、メール文面の作成、資料作成など、すでに多くの業務で活用されています。現代のAIは、大量のデータ処理によって支えられているのです。

続いて金築氏が紹介したのは、AI時代における事業成長のスケールです。金築氏は、Uberが営業黒字化までに要した時間と費用(14年、約4.5兆円)を例に挙げ、社会インフラを育てるには長い時間と巨額の赤字が必要だったと述べました。一方で、ChatGPTと並ぶ存在であるClaudeを開発するAnthropic社は、創業からわずか5年で年換算4.5兆円規模の売上を実現しているといいます。さらに講演直前には、GoogleがAnthropicに対して6.4兆円もの追加出資を行ったというニュースが報じられました。これは日本の年間防衛予算の7〜8割に匹敵する額が、一社のスタートアップに投じられていることを意味します。金築氏は、海外の顧客やテックコミュニティとの交流で得たシリコンバレーの人材事情なども交えながら、AIの登場が事業の成長カーブそのものを書き換えつつある時代のインパクトを伝えました。

現実世界へ広がるフィジカルAIの可能性

AIの活動領域はデジタル空間にとどまらず、現実世界へと広がりつつあります。金築氏はこうした現状を踏まえ、最新事例を交えながら、フィジカルAIがいかに精度と実用性を高めているかを紹介しました。

1つ目は、上海企業が開発した製造業向けロボット「AGIBOT G2」です。タブレット端末の組み立てや修理など、わずかな位置ずれが致命的な故障につながる精密作業に対応し、ミリ単位で位置を調整しながら作業を進めます。工場内を必要に応じて自律走行する機能も備えています。最大の特徴は、失敗から自ら学習する点です。人間の指導を受けることもあれば、自ら原因を分析して修正することもあり、こうした経験を積み重ねて精度を高めていきます。従来AI導入が難しいとされた精密機器の生産現場でも実用化が進みつつあり、人口減少に伴う人手不足への対応策として期待されている、と金築氏は語ります。

2つ目は、自動運転です。自動運転自体は15年から20年ほど前から研究されてきた技術ですが、海外では社会実装の段階に近づいています。サンフランシスコでは運転手のいないタクシーがすでに街中を走っており、アプリで行き先を指定すれば、そのまま目的地まで連れて行ってくれます。日本でも自動運転車の走行データ取得は始まっているものの、日本の細い生活道路のような複雑な環境では、まだ多くの課題があるとも付け加えました。

3つ目は、ソニーが開発した卓球ロボット「Ace」です。打球がどこに、どんな回転で飛んでくるのかをカメラで捉え、ラケットを当てる角度やスピンまで含めて1秒未満で計算して打ち返します。金築氏は、卓球のプロ選手との対戦においてAceが全試合で勝利したというエピソードを紹介し、その高度な技術力を強調しました。卓球のように、短い時間で連続的に判断と動作を繰り返す競技を制したことは、フィジカルAIの応用範囲の広さを象徴する出来事だといえるでしょう。

フィジカルAIの進化は、AIが単に文章や画像を生成する存在ではなく、現実の空間で判断し、動作する存在になりつつあることを示しています。だからこそ、その挙動が誤った時に何が起きるのかという問いが、ビジネスと社会にとって重みを増しつつあるのです。

AIが浸透する社会で信頼性を設計する

講演の質疑応答では、参加者から印象的な質問が投げかけられました。AIが確率に基づいて判断する以上、誤りはゼロにはならない。資料であれば人間がレビューして修正できるが、命に関わるフィジカルAIではどう責任を担保するのか、というものです。

これに対する金築氏の答えは、フィジカルAIにおいても、工学における「フェールセーフ」を取り入れることです。フェールセーフとは、システムにおいて故障や誤操作など何らかのインシデントが発生した場合に、危険な方向へ動作し続けるのではなく、必ず安全側に動作するよう設計するという考え方です。例えば、製造現場の機械は異常を検知すると稼働を停止します。同様に、フィジカルAIにおいても、インシデント発生時には安全な動作へ移行するよう設計する必要があると、金築氏は主張します。実際、自動運転の分野でも、危険を検知した際にはブレーキを優先するなど、安全性を重視した制御が取り入れられています。AIの判断を信頼するためには、常に完璧であることを前提とするのではなく、適切に判断できない状況でも安全を確保できる仕組みを備えることが重要なのです。

実は、フェールセーフの発想は、SIGQがこれまで培ってきたインシデント対応や、信頼性の継続的な改善に関する知見と深い繋がりがあります。

SIGQの事業の中核にあるのは、「信頼性の設計」です。金築氏自身、約10年にわたり大量データ処理とSRE(Site Reliability Engineering)を軸にエンジニアとしてのキャリアを積む一方で、データベースや大規模分散システムの研究に取り組んできました。そうした知見は、インシデント対応を支援するプロフェッショナルサービスや、自律型AIエージェント「Incident Lake」の開発に活かされています。システムの信頼性と、AIに不可欠な大量データ、この二つの専門性が交わる場所こそが、SIGQの事業領域です。

AIが現実世界へと進出し、人命や巨額のビジネスに関わるようになった今、信頼性設計は単なる技術的課題にとどまらず、事業継続の根幹を担うものへと変化しつつあります。Webサービスの安定運用や迅速な復旧に関するノウハウは、これまで工学や製造業が培ってきたフェールセーフの考え方と融合し、安全なフィジカルAIを実現するための信頼性設計の手法として結実していくでしょう。それは、AIがさらに発展していくうえで必要不可欠なものになるはずです。

AIの「間違った使い方」「正しい使い方」とは?

それではフィジカルAI時代に、人間が果たすべき役割はどう変化するのでしょうか。金築氏はまず、AIと人間の性質の違いについて整理しました。

AIが圧倒的に優れているのは、特定のタスクを24時間365日続ける能力です。例えば、1万枚の契約書を翌朝までに翻訳するような仕事を、文句一つ言わずに淡々とこなせるのはAIならではと言えるでしょう。一方で、人間の優れた点として見落とされがちなのが、省エネルギー性です。AIの稼働には膨大な水と電力が必要で、半導体の製造段階からエネルギーを消費しています。しかし人間は食事と一定の水があれば活動を維持できます。

人間にしかできないことは、他にも数多く存在します。例えば、関係性の構築や、責任を伴う重要な意思決定、そして専門領域における高度な判断です。学会で識者同士が情報交換を行ったり、お客様とお酒を飲みながら交流を深めたりする営みは、人間ならではのものです。また、人命に関わる手術のように、高度な専門性と重大な意思決定が求められる領域では、フィジカルAIが支援する場面は増えたとしても、最終的な作業と判断の主体は今後も人間であり続けるでしょう。

金築氏は、これらの性質の違いを踏まえ、AIの正しい使い方について次のように提案します。

AIの誤った使い方は、自分でレビューや評価ができない領域のタスクをAIに丸投げしてしまうことです。AIが「できました」と返してきても、内容の正しさを判断できなければ、誤りに気づかないまま世に出てしまいます。「AIは使えない」と評価される典型的なパターンです。

正しい使い方は、「部下に依頼するときと同じ感覚」で接することです。マネージャーは部下から受け取った資料をそのまま経営会議に持ち込まず、目を通して修正してから提出します。AIに対しても同様の姿勢が必要だと、金築氏は言います。自分が責任を持ってレビューできる範囲のタスクを任せ、出力を吟味して必要に応じて手を加えることが、AIの価値を引き出すうえでは欠かせません。

また金築氏は、自分が作成した資料の補強や点検にAIを使うのも有効だと勧めます。経営会議向けの資料や重要な書類について「この書き方で問題ないか」と尋ねれば、矛盾点や冗長な箇所を一瞬で指摘してくれます。自分が高い解像度を持っている領域だからこそ、AIの指摘を的確に取り込めるのです。

まとめ

会場とオンラインを合わせて約100名が参加した本セミナーは、終了後のアンケートでも高い評価を得ました。「大いに学びがあった」と回答した参加者が92%、「次回もぜひ参加したい」と答えた参加者が98%にのぼり、AIの最新動向を実例とともに学ぶ場としての需要の高さがうかがえます。

アンケート結果:学びの有無

アンケート結果:次回参加意向

AIが現実世界へと活躍の場を広げる時代に、AIを事業価値へと結びつけるためには、確率に支配された挙動を「信頼できるもの」へと変える仕組み作りが欠かせません。SIGQはこれからも、信頼性の設計を通じて企業のAI活用を支えます。

会社概要

  • 企業名: 株式会社SIGQ

  • 代表者: 代表取締役 金築 敬晃

  • 設立年月: 2024年8月

  • 所在地: 〒305-0031 茨城県つくば市吾妻2-5-1 つくば市産業振興センター203号室

  • 企業URL: https://company.sigq.io

AI Workstyle Lab編集部コメント

今回のAI事業開発勉強会は、AIが単なる技術トレンドではなく、事業構造そのものを変革する可能性を秘めていることを明確に示しました。特にフィジカルAIの進化は、製造業や物流、サービス業など、これまで自動化が困難だったリアルな現場に大きな効率化と新たな価値をもたらすでしょう。企業はAIを「部下」のように捉え、レビューと責任を持って活用することで、飛躍的な生産性向上とコスト削減を実現できます。個人事業主にとっても、AIは強力な業務支援ツールとなり、新たなビジネスチャンスを創出する鍵となります。AIの信頼性設計は、これらのビジネス展開を支える基盤として、今後ますます重要性を増していくとAI Workstyle Lab編集部は考えます。

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この記事の情報
記事の著者
AI Workstyle Lab 編集部

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